天狗の製品進化論
「うずら卵」と「マッシュルーム」は天狗缶詰のロングセラー製品。時代のニーズ、お客様の声、
開発者たちの思いによって、日々進化を遂げています。そんな進化から生まれた2製品の開発秘話をお届けします。
※本ページで紹介されている肩書等は、取材当時のものです。
- 私たちが開発しました!
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- 白鳥工場
- 企画・開発部兼品質管理室 係長
- 太田光(2005年入社)
製品開発のきっかけについて教えてください。
- 吉田
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鶏卵ゆで卵の半熟ブームがきっかけです。
当時、当社の生産環境では完全殺菌の半熟ゆで卵を生産できず、他社に遅れを取っていて危機感を感じていました。
それで、輸入品や他社には真似出来ないうずらの半熟ゆで卵製品の開発を思いついたのです。
- 太田
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僕は当時、三河工場で品質管理に携わっていたのですが、当社製品の生産量が伸び悩んでいるのを肌で感じていました。
そんなとき吉田工場長の「うずらの半熟卵を作りたい」というプランを聞き、挑戦しようと密かにテストを始めたんです。
- 吉田
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太田君が生産現場で開発の作業をしている姿を見たときは、感激しました。
うずらは白身が薄いので割れやすい。さらに黄身を半熟にしようとすると、白身がより薄くなって簡単に破れてしまうんです。「生産ラインに絶対に乗らない」「苦労が報われないよ」と周囲からは反対されましたね。だから、最初は二人だけでこっそり始めたんです(笑)。
開発はどのように進めていきましたか?
- 太田
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機械できれいに殻をむくための研究から始め、スピード調整や殻割りの強度を試行錯誤しました。
スピードを「0.5遅くしたらどうだろう?」とか…。
現場の人たちも「どうしたの?」と気にしてくれて、次第に仲間が増えていきました。
- 吉田
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半熟卵を安定して作るためのボイル法にも苦心したよね。
- 太田
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そうです。卵の味は、硫黄分で決まります。
熱を加えると、硫黄を含むたんぱく質がゆで卵特有の風味を醸し出すのですが、加熱し過ぎると成分が揮発してしまう。
だから、温度・時間を細かく調整しベストな数値を探りました。
十分な殺菌とめざす半熟具合をかなえるため、茹で時間・殺菌工程を調整し、低温で仕上げるよう工夫しました。
そうすると、うまみも増したんです。
- 吉田
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半熟をめざしたことで、結果的に味もおいしくなったんだよね。
うずら卵本来のうまみが凝縮された味になりました。
ただ、容器への充填の衝撃に耐えられず割れてしまう症状が解決できず、最終的にとろとろの半熟状態は諦めざるを得ませんでした。
- 太田
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そこで、充填方法の改善も含め、出来る限りやわらかい食感をめざしました。
最終的に、黄身も白身もやわらかで、噛むと口の中でパッとほどけるような食感を実現。透き通った白身越しにしっとりやわらかな黄身がうっすら映る、見た目にもおいしそうな仕上がりになりました。
社内で試食会などもおこないましたか?
- 太田
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品質管理室のメンバーに何度か試食してもらい、完成させたものを営業会議に出しました。
- 吉田
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辛口の各営業所長が全員一致で「うまい!」と言ってくれたのは、本当に嬉しかったです。
その後、展示会での反応もよく、徐々に販売数が伸びていきました。
そして、大手焼き鳥チェーン様との契約にもつながったんです。工場から提案した製品が高く評価され、売上にも貢献できたことに大きな喜びを感じました。
このプロジェクトで得たものは、どんなことでしょうか?
- 太田
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新しいことに挑戦する勇気と、良き理解者です。
今回、吉田工場長が背中を押してくださったことで最後までやり抜くことができました。
- 吉田
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私も、自分と同じ考えや意欲を持っている人が同じ工場内にいたことに感激したし、チャンスだと思いました。
太田君は品質管理の仕事と、このプロジェクトの両立で大変だったはずですが、よく乗り越えて製品化してくれました。
- 太田
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今回の経験を糧にして、今後もお客様に面白いと感じていただける製品を作っていきたいと思います。
- 私たちが開発しました!
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- 白鳥工場
- 企画・開発部 開発課 主任
- 光武いずみ(2006年入社)
どのようなニーズがあって、この製品が生まれたのですか?
- 市古
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マッシュルーム製品は当社の主力製品で、社長も以前から強い思い入れを抱いていらっしゃいました。
そんな中、他社にはない、よりおいしいものを作ろうというプロジェクトが立ち上がりました。
- 光武
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それまではボイルしたマッシュルームを使った製品だけのラインナップでした。
ボイルする目的は、マッシュルームの中の空気を抜くことと、酵素を失活させること。ボイルしないと、その2つが原因となって、徐々に色が悪くなるんです。
ただ、ボイルするとうまみ成分が一緒に抜けてしまいます。そこで、ボイルしていないマッシュルームを使用した新製品の開発が始まりました。
おいしさ追求のため、どんな工夫をしましたか?
- 市古
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きのこ類に元来含まれている、豊富なうまみ成分を生かして加工すればおいしいものができるのではないかという発想からスタートしました。
まずは、ボイルをしなくても収穫後のマッシュルームの色が悪くならない保存方法を開発しました。
次にそのマッシュルームに残っている酵素を利用し、うまみ成分を増やす方法を試行錯誤したんです。
- 光武
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まず注目したのは、酵素が最も活性化する温度です。
ある温度になると酵素の働きによって、マッシュルーム本来のうまみ成分が、生の状態よりも急激に増加します。でも温度が高すぎると酵素は失活してしまいますし、低いと酵素が作用せず、うまみ成分は増えません。
- 市古
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ですから、その間の温度帯の中で、最大限にうまみを増やせる加熱条件を見つけようと挑戦。
さまざまな研究データも参考にしました。
- 光武
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加熱温度を変えて、何十回も試しましたね。
加熱殺菌した後、実際に袋を開けて糖度を測ったり…。夢にマッシュルームが出てくるほどでした(笑)。
- 市古
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その過程で生まれたのが二段階の加熱処理です。
通常、マッシュルーム製品は高温で加熱して殺菌しますが、同時に酵素が失活してしまいます。そこで、まず殺菌よりも少し低い温度で加熱して、酵素を十分に活性化させ、うまみ成分を増やします。その後保存性を保つためにもう一度高温で加熱して殺菌する方法を生み出しました。
そして最終的に割り出したベストな温度と時間で二段階加熱すると、うまみ成分であるグルタミン酸が当社従来品の約2.7倍に増えるという結果が得られたんです。この製法は特許も取得しました。
- 光武
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おいしさは、数値だけでなく実際に食べてみてもわかりましたよね。
深みのある味わいがふわっと口に広がりました。
この製品は、マッシュルームと一緒に袋詰めされた
エキスも特徴的ですね。
- 市古
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通常はボイルしたマッシュルームと注入液を一緒に入れますが、この製品は生のマッシュルームしか袋に充填しません。
液を入れると味が薄まってしまうので。
- 光武
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今回、マッシュルームだけを充填して真空パックにし加熱殺菌したら、水分が出てきたんです。
舐めてみたら、うまみが凝縮されてとてもおいしかった!
- 市古
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スープやソースを作るときにそのまま使えるおいしいエキスになりました。
偶然の産物が、製品に高い付加価値をもたらしたんです。
周囲の反応はいかがでしたか?
- 市古
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社長や各営業所長にも試食してもらいました。そこで高く評価され、営業担当者が多くのお客様へ回ってくれました。
「うまみが感じられておいしい!」と、お客様からも喜んでいただいたと聞き、とても嬉しかったです。
光武さんは営業担当者がお客様にメニュー提案するためのレシピも作ってくれたよね。
- 光武
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せっかくおいしいエキスもできたので、それを生かしたメニュー提案などで味の違いを感じていただければと思って。
展示会でも評判はいいようで嬉しいですね。
今後、さらにバージョンアップさせるための
課題はありますか?
- 市古
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うまみ成分を残しながらより一層色を明るくできたら、見た目もさらにおいしそうになると考えています。
また、今私はデザート系製品の開発に取り組んでいますが、形状や栄養成分などにこだわって、これまでにないものを作りたいです。
- 光武
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製品開発に携わって、同じ原料でも製法を変えることで新たなおいしさを引き出せることを学びました。
また、出来上がった製品の売り方を考える上で、他部署との関わり方も勉強できました。
- 市古
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より多くのお客様に選んでいただけるよう、これからも研究を重ねていきたいです。